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新潟地方裁判所 昭和38年(ヲ)103号 決定 1967年1月28日

申立人 大同鉄工株式会社

相手方 小林新太郎

主文

昭和三五年(ケ)第一一七号抵当権実行競売事件につき、当裁判所が同年八月二六日なした不動産競売手続開始決定中別紙目録<省略>(一)記載の不動産及び同(二)記載の27ないし45の機械に関する部分を取消し、右建物及び機械についての競売申立を取消す。

申立人のその余の本件異議申立を却下する。

申立費用はこれを二分し、その一を申立人のその余を被申立人の負担とする。

理由

一  申立代理人は「新潟地方裁判所が同庁昭和三五年(ケ)第一一七号抵当権実行競売申立事件につき同年八月二六日なした不動産競売手続開始決定を取消す。右競売申立を却下する。」との裁判を求め、その理由として、

1  被申立人は工場抵当法第二条、第三条により申立人所有の別紙目録(一)記載の建物及び同(二)記載の機械(以下本件建物及び本件機械という)に設定した抵当権(以下本件抵当権という)につき、昭和三五年八月二四日新潟地方裁判所に競売を申立て(昭和三五年(ケ)第一一七号)、同裁判所は同月二六日本件建物及び本件機械につき不動産競売開始決定(以下本件競売手続開始決定という。)をした。

2  しかし、本件建物は昭和三七年一二月六日火災により全部滅失した。

3  右火災により本件抵当権は消滅したので、本件競売手続開始決定の取消及び被申立人の競売申立の却下を求める。

と述べた。

二  当裁判所の判断

1  審尋の結果及び一件記録によれば、前記一1及び2の事実が認められる。この事実によれば、本件建物が火災により滅失したのは、本件競売手続開始決定により本件建物及び本件機械に対し差押の効力が生じた後であるから、本件建物の滅失にもかかわらず、なお、本件機械が被災当時と同一性を失わずに現存している限り、搬出されていても(工場抵当法五条一項参照)これに対して抵当権の効力が及んでいるものと解すべきである。そして、一件記録によれば、本件競売手続は新潟地方裁判所昭和三六年(ヨ)第八五号競売手続停止仮処分決定により、昭和三六年六月五日からその本案事件である同庁同年(ワ)第二一二号債務不存在確認請求事件の判決確定に至るまで停止されたが、右本案事件は昭和四一年一一月四日被申立人勝訴により確定したことが認められるから、これにつき本件競売手続を進行させなければならない。尤も、その競売の手続については、建物の滅失により、本件機械は本件建物との一体性を失い、動産化したものとして、別個に動産競売の手続によるべきであるとも考えられるが、本件機械の競売の実行が可能なのは本件抵当権に基く本件競売開始決定の効力に由来するもので、しかもその競売は抵当権の実行としてなさなければならないから、動産競売手続にはよらず、本件競売手続をそのまま進行させるのが相当であると解すべきである。

2  審尋の結果によれば、別紙目録(二)記載の本件機械のうち1ないし20は、比較的被害が軽微で部品の取換え、やすり、ペーパーによる研磨などの修繕の程度で従前とほぼ同様の形状及び効用のまま使用が可能となり、新潟市山木戸居下一〇九三番地所在株式会社山岸鋼加に置かれていることが認められるから、右機械は火災により廃材と化したものではなく、修繕によつて同一性が失われたものと認めることはできない。また、審尋の結果によれば、別紙目録(二)記載の本件機械のうち21ないし26、46ないし51は、火災により使用不能と化し、現在廃材として21ないし26の機械は新潟市海老ケ瀬居浦所在の新潟合金株式会社敷地に、46ないし51の機械は株式会社山岸鋼加に置かれていることが認められる。従つて、別紙目録(二)記載の本件機械のうち1ないし26、46ないし51については、抵当権が存続しているものというべきである。

しかし、審尋の結果によれば、それ以外の機械(別紙目録(二)27ないし45)は火災により廃材として、川田商会株式会社に売却され、同社がこれを処分し、現存していないものと認められるから、右機械についての抵当権は消滅したものといわなければならない。(本田弥太郎作成の昭和三六年五月六日附不動産評価書記載の実地調査結果によれば1ないし26、46ないし51の機械のうち火災以前から存在しなかつたものがあるごとくであるが、右調査結果は申立人及び被申立人の調査結果のいずれとも一致しないから、一応右機械が現存するものとして手続を進め、その進行段階で不存在が明らかになつた機械があれば、改めてそれについての競売手続開始決定取消等の法的措置を講ずれば足るものと考えるべきである。)

3  以上のように、現存しないことが明らかな本件建物及び別紙目録(二)記載の本件機械のうち27ないし45については競売手続を続けることができない。このような場合、本件競売手続開始決定中右建物及び機械に関する部分を取消し、これについての競売申立を却下するのが相当であると解すべきであるから、その限度で本件異議申立は理由がある。その余の機械についてはなお競売手続を続行すべきであるから、これについての本件異議申立は理由がなく、これを却下し、申立費用はこれを二分し、その一を申立人の、その余を被申立人の負担として主文のとおり決定する。

(裁判官 松野嘉貞)

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